大阪高等裁判所 昭和29年(う)2469号 判決
論旨第一点は、原判決には重大な事実誤認または審理不尽による違反の点があると主張する。
そこで記録に基き判断すると、原判決は、「第一、被告人大城仁栄、同桜井邦弘は共謀して尼崎市鶴町一番地日亜製鋼株式会社尼崎工場所属岸壁において同会社がクレーンで船から陸揚げする際同岸壁寄りの川中に落下して水没し占有を離れた同会社所有の鉄屑五十貫位を昭和二十八年十月十一日午前一時頃ほしいまゝに之を水中より引揚げて不法に領得し、第二、被告人大城真昇、同桜井邦弘、同長浜栄蔵は外二名と共謀して前同所において前同様船より陸揚げする際川中に落下して水没し占有を離れた前記会社所有の鉄屑四十貫位を昭和二十八年八月六日午後五時三十分頃ほしいまゝに之を水中より引揚げて不法に領得し以つて横領した」との事実をその判決挙示の証拠によつて認定判示している。しかし占有離脱物を拾得すること自体は不法でなく、原判示のほしいまゝにとは如可なる具体的事実を指すか分明でない。更に原判決はその判決の末尾に「本件公訴事実中起訴状記載の主位的訴因である窃盗罪は証拠によれば本件の贓物である鉄屑の内特に内地もの(その数量は明かでない)については日亜製鋼株式会社がクレーンで陸揚げをして看貫をして後荷主から引渡しを受けることになつており従つてその途中において川中に水没したものは荷主の所有に属する内にその占有を離れたものであつて日亜製鋼株式会社は荷主との特約に基いて単にその所有権のみを得たものと認められ従つて窃盗罪の成立を認めることはできない」と説明しているが、そもそも盗罪の対象たる他人の財物は犯人以外の者の実力的支配内にあれば足るのであつて、必ずしもその者が現実に握持していることは必要でないこというまでもない。ところで原審の検証調書、原審の証人里村文男、出口正春、吉井隆雄、菅沼行夫の各尋問調書、原審公判調書における証人大西重信、大井手常敏、北岡繁、池田盛治の各供述記載、兵庫県指令西土第二三五三号、第二三五四号、第二三五五号の各写、松原武三郎作成名義の「当社関係水没鉄屑に関する説明書」と題する書面、によると、本件現場は、日亜製鋼株式会社本社工場岸壁に面した運河であつて、そこには荷揚げのためのクレーン(起重機)があり、その上部には五個の電灯がついており、そのクレーン南方約七十米の所には見張所があり、その見張所の運河に面したところには、三尺平方の白塗のブリキ板に赤字で「注意、当社岸壁附近に近寄り、又は河底に沈下する金属類その他の無断拾得を禁ずる、右違反の場合はその筋から処分せられることがある、日亜製鋼本社工場長」と記したものが立つていること、そしてその附近を常時右会社の監視人が巡回して右違反行為に対して警戒していること、またその所の水中には同会社関係の金属類のみが沈下するような情況にあること、並にその附近の水面使用については同会社が兵庫県知事から特別の許可を得ていること等が明かであり、これらの諸点からすると、同会社が船から荷揚げする際水中に落下した鉄屑についてはその所有権が荷主に属するかの如何を問わず、その物件は同会社の支配力を及ぼすことのできる場所内に存在したもの、いいかえると同会社の管理下にあつたものというべく、従つて右会社が之を占有している状態に在ると認めるのを相当とする。原審並に所論が之を占有離脱物であるとするのは誤つている。従つて之を前提としてなされた原判決は不当であり、また論旨第一点(但し、数量を争う点は之を除く)も之を採用することが出来ない。そこで刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄した上、論旨第一点中本件昭和二十八年八月六日の鉄屑が四十貫位であつたかどうかの点並に論旨第二点の量刑不当を主張する点を考慮に入れ同法第四百条但書に則り自判する。
当裁判所の認定する事実。
第一、被告人大城仁栄、同桜井邦雄は共謀して尼崎市鶴町一番地日亜製鋼株式会社尼崎工場所属岸壁において同会社がクレーン(起重機)で船から陸揚げする際同岸壁寄りの川中に落下して水没した同会社の所有であつて同会社が占有中の鉄屑五十貫位を昭和二十八年十月十一日午前一時頃水中より引揚げて窃取し、
第二、被告人大城真昇、同桜井邦弘、同長浜栄蔵は外二名と共謀して前同所において前同様船より陸揚げする際川中に落下して水没した同会社の所有であつて同会社が占有中の鉄屑四十貫位を昭和二十八年八月六日午後五時三十分頃水中より引揚げて窃取したものである。
(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 網田覚一 判事 小泉敏次)